3月下旬となり、組織では人の入れ替わりがある時期になります。
毎年、この時期前後では、新人(あるいは異動してきた人など)に、
研修で話す機会が多くなる方もいらっしゃるかと思います。私もそうです。

データ解析やモデリング、可視化について、これまで専門ではなかった方に説明する際、
質疑応答で時々出るのが、
「なぜデータ解析が必要なのでしょうか?
私自身、実際にモノを購入するときに、本日出てきたような数式を意識したことはありません。
データで人の気持ちや行動がすべて決まるとは思えません。
そもそも私は、数字ではなく、面白いアイデアを実現することを仕事としていきたいのです!!」
といったニュアンスのことです。
なぜか、彼らはデフォルト怒っています。
※そもそも、データで人の気持ちや行動がすべて決まるとは言っていない。

そういった疑問に対して、「い、息吐きすぎです!」と言って後ずさりするのも
全く解答になっていない
ので、真面目に考えるにあたり、
最近、読了した下記書籍はとても参考になると思い、備忘録がてらいくつか引用しておきます。

本書籍は、ミクロ経済学の専門書でありながら、
データ分析やモデリング全般に大変参考になる心構え、考え方、実際の手法が
多く見られます。(私もそのようなモチベーションから読み始めました)

さて、まずミクロ経済学では問題を、
「事実解明的な問い」と「規範的な問い」に分ける(P.2)とのことです。
データからわかる事実が「事実解明的な問い」であり、
その結果がいいか悪いか、それを考えるのは「規範的な問い」となります。
まず、この二つの問いを混合しないことが建設的な議論において重要である、ということです。

そして前者の「事実解明的な問い」を考えるに、
「なぜ数理モデルなどわざわざ使って持って回った分析をするのか、(中略)、というと、
大きな見落としや、論理の穴がないかをチェックする有効な方法だからである」
(P.4)とのことです。

それでも、人の意識や行動を、数字で表す事に疑問を持つ方もいるかもしれないが、
「あはたがそういった数字を実際に意識して最大化しているということではなく、
『あなたが自分の好きなウーロン茶を飲んでいる』ということを、
私(経済学者)が間違いなく記述するために、こうして作った数字を使って記録したもの」
(P.15)
であるにすぎないということだ。

いやいや、そうはいってもデータ解析の結果でてきた数式はイミフで、
とても本当にこの数式のとおりに事象が起こるとは思えない、といった際には
「結論がたしかに現実の重要な一面をとらえているかどうかをチェックするためには、
モデル分析の結果を日常の言葉で解釈し直してみることが有効」
(P.30)であるとのことです。
確かにこれによって一気に数字の組み合わせが、グっと実感に沿ったものに見えてくるように思います。

そのようにして見えてきたものは「常識でも十分理解・納得できるが、
モデルの力を借りずにこれを一発で思いつくのは難しい」
(P.31)ことが多いのです。

上記までのような「事実解明的な問い」にこたえてのち、
ようやく、「規範的な問い」の議論が始まる、ということです。

一方で、余談ですが、以前ポストした、
「インサイト志向とモデリング志向のジレンマ」
といったこともあることに注意かと思います。
すなわち、「データから意外な発見を期待する」というより、
「人間には解釈不能な要因の関係こそデータ分析する意味があり、理由ではなく結果を重視する」という姿勢も、
(求める結果のスコープによっては)あり得るということです。

さて、上記引用したような心構え、のほかに、
もう一つ、データ解析において重要な示唆を本書籍全体を通して得られました。
それは、ミクロ経済学で、度々登場する、”微分”、”接線”というアプローチです。

すなわち、問題解決にあたる際、
・複数あるパラメータのうち、ひとつの変数x1を選び他を固定とする。
・もしx1を少しだけ変えたらどのようなことが起こるか、を考える。(微分)
・x1以外にx2も同時に変えたらどのようなことが起こるか、を考える。
・複数のパラメータを変更する中で、目的を達成する最小コストを考える。(接線)
という段取りです。

もっとシンプルにいうと、ミクロ経済学に限らず、ですが、
自分が考えやすいシンプルで限定的な条件から始め、
徐々に複雑にしていく、ことで論理的に思考を深堀ができる、ということかと思います。

いかがでしたでしょうか。
データ解析がなぜ必要か、そのアプローチの醍醐味や重要性を納得いただけるように思います。
もっとも本書籍は、偏微分のオンパレードのため、
冒頭のアンチデータな新人にオススメすると、
震える声で「ありがとうございます」と言われることになると思いますが。
(非常に面白いが、じっくり読み進めるタフネスが必要)