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/ produced by Hiroyuki Shinoda
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2019.6.15
テクノロジー&メディアの未来を”捉え直す”オススメ本2019年上期

2019年上期に読んだ本のうち、
テクノロジー・マーケティング・メディア関連で、面白かった本を、
備忘録がてらまとめておきます。

 

全体的に、
「これまでテクノロジーやメディアで考えられていたことを
もう一度捉え直そう」
というスタンスのものが、
多かったように思います。

もはやインフラとして生活に深く浸透しているamazon、
近年対等してきたUBERなどに代表されるギグ・エコノミー、
アラブの春やオキュパイ運動などのソーシャル革命、
これらは、今後もその活動を維持することができるのか。
これらの台頭の裏側に隠されたものは何だったのか。
そして、AIの最先端の使い方は果たしてどのようなものなのか。

メディア、テクノロジー、マーケティングなどに関わる方々にとって、
ここ数年、業界で言われていたことが果たして本当に正しかったのかを
考えるきっかけとなる、オススメの本となります。
※なお、あくまで私が2019年上期に読んだ、ということでして、
 2019年上期に発売された、とは限りません。
 ただし、上期に読んだ中で、できるだけ最近の本を挙げさせていただきました。

[目次]
(1) 21世紀型サービスの発展の裏で犠牲になった人々
(2) 近年のウェブ起点の政治運動はなぜ”上手くいかなかったか”
(3) AIの公正さを憲法的に考えること
(4) テクノロジーは問いを投げかけるもの
(5) 仮想世界から覗くAIの未来



| (1)21世紀型サービスの台頭の裏で犠牲になった人々

1冊目は
『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』となります。
タイトル買いをした本でして、もはや、タイトルが全てではあるのですが笑、
近年のアマゾンやウーバーなどのサービスの発展の裏で、
それらのサービスを支える物流の現場や、コールセンター、などにおいて、
いわゆる「ゼロ時間契約」(どれくらい働くことができるか固定ではない)で働く人々の、過酷な働き方、生活を、
実際に筆者が潜入取材して現場の声を拾いながら書かれた
ドキュメンタリーとなります。

本書籍では、筆者の住むイギリスを舞台に、
アマゾンの倉庫、介護業界、コールセンター、ウーバーの運転手、
など様々な業界の過酷な働き方を紹介しております。


一見、「自由や自律を重んじた耳障りのよい近年的な働き方」をアピールする仕事の裏側に存在する、
格差社会、非正規雇用、移民問題、などの問題が、
ナマナマしい、現場で働く人の声とともに紹介されており、
読み物として、とても面白いです。


アマゾンの倉庫での仕事を紹介する章における、

“私たちピッカーには、通常の意味でのマネージャーはいなかった。
あるいは、生身のマネージャーはいないと表現したほうが妥当かもしれない。
代わりに従業員は、自宅監禁の罪を言い渡された犯罪者のごとく、
すべての動きを追跡できるハンドヘルド端末の携帯を義務付けられた。
(中略)指示は…私たちが携帯する端末にリアルタイムで送られてきた
–「ここ1時間のペースが落ちています。スピードアップしてください」”
(本文より引用)


という記述は、今後の社会を見据える上で、示唆に富んでいるように感じます。


「AIによって仕事を奪われる」心配は全くしておりませんが、
(その分、新たな仕事が生まれてくるだろうと思うため、)
「AIの台頭によって新たに生まれる仕事(あるいは人間が担うべく残る仕事)が、
今、世間でうたわれているような、”人間らしくクリエイティブな”仕事なんだろうか」

とは心配してしまいます。

アマゾンの倉庫の仕事は、上記データで管理されるという側面だけではなく、
労働環境・労働時間・給与、そして派遣会社からの雇用形態、
ともに非常に過酷なものであるようです。


ウーバーの章でも、アマゾンでの仕事と似た事態が起きていることが明かされます。
一見、ウーバーのドライバーは「好きな時に好きなように働くことができる21世紀的な働き方」と
思われますが、その実態は大きく異なります。


“ウーバーはドライバーに長時間にわたって仕事を拒否することを許そうとしない(中略)
同社はドライバーたちに、乗車リクエストの80パーセントを受け入れなければ
「アカウント・ステータス」を保持することができないと通知している。
ドライバーが3回連続で乗車リクエストを拒否すると、自動的にアプリが停止する場合もある。(中略)
いったんアプリにログインしてしまえば、どの仕事を引き受けるかについて
ドライバーに選ぶ権利はほぼないということだ。”
(本文より引用)
※ちなみに、ドライバーがアプリから長時間ログアウトしているとそれはそれで警告があるようです。


私はamazonのヘビーユーザですし、海外の旅先ではウーバーをよく利用しますが、
サービスの裏側で、”非人間的な働き方”(本書における表現)を強要される人なく、
テクノロジーが豊かな人をより豊かにするためではなく、
困難な状況に陥っている人を救うために活用されてほしい、と思います。



| (2)近年のウェブ起点の政治運動はなぜ”上手くいかなかったか”

2冊目は
『ツイッターと催涙ガス』となります。
2011年以降、「アラブの春」や「オキュパイ運動」、「雨傘運動」など
世界中で起きた社会運動において、
twitterやfacebookなどのソーシャルメディアが大きな役割を果たしたことは、
多くの方々がご存知のことかと思います。
それに対して、本書は、社会運動におけるソーシャルメディアの強みも触れた上で、
「なぜそれらが、長期的には上手くいかないのか」に言及しております。


本書の特異な点は、筆者が、社会学者・アクティビストであると同時に、
プログラマーでもあるという点でして、
“研究対象とする運動について、オンライン活動の様々な側面を記録した
「ビッグデータ」にアクセスできる”(本文より引用)
ことが、あげられます。


それでありながら、第三者的な数字の集計やビジュアライズでまとめていくのではなく、
当事者として目撃したこと、現場およびソーシャルネットワーク上を、
「尋ねながら歩く」(本文の表現より)スタンスを重視している書籍となります。


センセーショナルな出来事が起きた瞬間の、一次報道のみで物事を理解するのではなく、
中長期的にウォッチしながら、「その後どうなったのか」という視点が重要であることに気付かされます。
そういう意味では、この本で述べられていることも結論ではなく、過程なのかもしれません。



| (3)AIの公正さを憲法的に考えること

続いての書籍は『AIと憲法』となります。
「AI」と「憲法」という、一見、異質な組み合わせのテーマとなりますが、
その実、AIが現状行っている、
“(ブラックボックス的な)事前予測に基づく個人の効率的な「分類(仕分け)」と、
それによる差別や社会的排除は、「個人の尊重」(日本国憲法13条)や
「平等原則」(14条)を規定する憲法上の論点そのもの”(本文より引用)

であるとのことです。


近年のテクノロジーやメディア環境は、あまりに急速に発展してきたため、
政治的プロセスによる合意に基づいて構築されたものではないものが、
サービスやインフラとして普及する状態となっております。


もちろん、それはそれで良い点もあり、実装を通して、社会に問い、
良いものが淘汰を経て、残っていく、という考え方もあるかもしれません。
しかし現状は、(1)のアマゾンの倉庫やウーバーのドライバーとして選択肢がなく働く人々、
twitterやfacebookにあふれるフェイクニュース、などのように、
伸びていくサービスが必ずしも、良い方向に進んでいくとは限りません。


そこで、GDPR22条の中で「AIなどを含む自動処理のみによって重要な決定を下されない権利」が述べられていることや、
ICML(機械学習のトップカンファレンス)において
「機械学習における公正さ追求し、少数派を包摂するようなあり方を模索する」議論が行われていること、
などのように、近年、「AIの公正さを憲法的に考えること」が国際的に重要なトレンドとなっております。


中国の「信用スコア」のように、
日本でもスクアリングサービスが、各企業から提供され始めておりますが、
公共サービスレベルなどの決定がAIによってブラックボックスになされると、
なぜ自分が悪いのかがわからず、挽回ができなくなり悪循環に陥りうる可能性があるという点や、
そもそもの決定プロセスがデータの偏りやアルゴリズムの不備によってフェアではないケースに対応できない、
といった議論についても述べられております。


憲法、の本ではありますが、AIの活用のされ方を軸としてわかりやすく書かれており、
広く、データ分析、マーケティングに関わる方にオススメの本となります。



| (4)テクノロジーは問いを投げかけるもの

4冊目は『ニューダークエイジ』となります。
こちらも、現代のテクノロジー先行社会に警鐘を投げかけるものとなります。


本書で述べられていることは、
様々なデータ・テクノロジー活用事例を通して、
“システムの純粋に機能的な理解だけでは不十分なのである。
ものごとの来歴と結果についても考えられることが必要だ。
そのシステムがどこから生じたのか、誰が何のためにデザインし、
いまなおその中に隠されている意図は何なのか”
(本文より引用)ということに加え、
「テクノロジーを通した世界の新たな理解」や、
「テクノロジーが答えを出すのではなく、質問を投げかけてくれる」というスタンスについて
考えること、であります。


章立てもユニークで
「裂け目」「計算」「気候」「予測」「複雑さ」「認知」「共謀」「陰謀」「同時実行」「雲」という
10章からなり、サクサク読める章もあれば、思考を深めながらじっくり読むべき章もあり、
トピックは多岐にわたります。


実は、監訳の久保田先生とは対談をさせていただいたことがあり、
その時に久保田先生のおっしゃっていたことが非常に面白かったことから、
発売前から気になっていた本でありまして、年始に一気に読みました。



| (5)仮想世界から覗くAIの未来

最後に、5冊目は
『FINAL FANTASY XVの人工知能 -ゲームAIから見える未来-』となります。
毎年、ゲーム開発者向けカンファレンス、CEDECに参加させていただいている中で感じることは、
日本におけるAI活用の最先端は、ゲーム分野であるということです。
※ちなみに、私はゲーム業界の人間ではなく、個人としての興味から自主的に参加しております。

近年のゲームは、オープンワールド型のゲームが主体となってきたことで、
ゲームという仮想環境が現実世界のシミュレーションに近くなり、
NPCや敵キャラクター、はたまた世界自体がAIによって制御されている中で、
人がどのように動くことが最適か、を膨大なプレイヤーのログとともに高速でPDCAを回せる環境となっています。
これらは、無人店舗や、自動運転などに代表されるスマートシティに応用できる技術に他なりません。


本書籍は、全世界で840万本の売上を記録した「FINAL FANTASY XV」において、
いかにAIが効果的に活用されていたかを余すことなく記載せれております。
本作は、オープンワールド型かつゲーム中で時間変化が発生するシステムとなります。
このゲームでは、「旅」が大きなテーマとなっておりますが、
主人公とともに行動する仲間の動き方、
街の中の人々の動き、モンスター、などがAIによってどのように制御されているか、
非常に詳しく記載されております。

従来のゲームでありがちな、仲間が主人公のあとについてくる、という動きではなく、
時には主人公より先に進んだり、4人の仲間が固まって行動するのではなく、
現実で、よくあるシチュエーションのように、2人2人で話ながら行動する、などの細かな制御
がなされており、
それらが旅の臨場感を高めるとともに、キャラクターへの感情移入を促しております。


また、街の人の動きも、単純な動作のループではなく、
朝・昼・夜の時間帯ごとのスケジュールに応じて、活動エリアが変わるとともに、
カフェの椅子があれば座る、一人で座っているときは、ぼーっとしているが、
誰かと座るとおしゃべりする、
などのリアルな生活の様子がAIによって制御
されております。
この技術で、渋谷や新宿の街をシミュレーションしてみてほしい、。

上記はほんの一部にすぎず、その他豊富なAI活用のトピックについて述べられております。
現実世界で何かを制御したり、シミュレーション、予測する必要がある方、
(つまりメディアやマーケティングに関わる方)は
何かしらのヒントが得られるはずです。

FINAL FANTASY XVをプレイした方はもちろん、
ゲームに関わる方、メディアに関わる方、AIはじめデータサイエンスに関わる方、
に広くオススメできる内容です。


以上、特に、ここ最近読んで面白かった5冊をピックアップさせていただきました。
どの本も、思わずメモしたい記述が多く、
わが家のポストイットが恒常的に不足しております。

早くも2019年も半分が過ぎようとしておりますが、
後半戦を駆け抜けるため、
梅雨に突入した今が、インプットをするには最適なシーズンだと自分を奮い立たせながら、
YouTubeやスプラトゥーンの誘惑と日々戦っております。

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