本稿では、データ利活用における最新技術動向や
その技術利用の際に勘案すべき道義的な責任について、
推薦書籍からの引用として紹介する。

[目次]
(1) データ利活用における”天秤”と”ジレンマ”
(2) Fintechに学ぶ個人を特定しないデータ活用
(3) データビジネスに潜む道義的責任に立ち向かう



| (1)データ利活用における”天秤”と”ジレンマ”


メディアによって誰もが同じ情報を得ていた時代とは異なり、
現在、Googleの検索結果は人によって異なり、
Facebookに流れる広告は、人それぞれに最適化されている。



我々は、知らず知らず、検索やGPS位置情報、購買行動によって、
日々自分の嗜好をあらわすデータを生成し、
そのデータを用いて企業はマーケティングを行っている。
デバイスの進化とともに取得できるデータは多様化し、
データ活用手法は日々進化している。
データビジネスは、ターゲティング精度、予測確率を向上させるために、
ますます多くのデータを必要とし、収集している。



一方で、それらのデータ活用の際に利用するユーザデータは、
非常にセンシティブなものも含まれ、取り扱いには厳重な注意が必要であり、
その管理コストは膨大なものになる。
また、そのデータ取得方法や利用方法は、十分なユーザ理解が得られない場合、
(仮にサービス利用前に利用規約などに記載するなどして)合法だとしても炎上リスクを伴う。



よって、データを利活用したサービス・ビジネス提供を考えている事業者は、
そのデータサービスがテクニカルに可能だとして儲かるとしても、
本当にやるべきか、やってよいのか、
といった道義的な問題が伴う。
そのため、よりよくやるため方法がないか、などの検討が必須となる。



本稿では、近年のデータ活用において、
特に進化が目覚ましいFintechを中心に使われている、
最新データ活用テクニックを参照するとともに、
その一方で、データビジネスをはじめる際に勘案すべき点を
推薦書籍とともに紹介する。



上記によって、
上質なデータサービスを受けるためにはユーザが必要以上にプライバシーをさらされる、
といった天秤ではなく、
必要最小限のデータ提供で、利便性を享受することができるサービスが増えることをのぞむ。



| (2)Fintechに学ぶ個人を特定しないデータ活用


なぜ、最新のデータマーケティングをFintechから学ぶべきだろうか、
という点は、金融を扱うという特性から、以下2点にまとめられる。



・扱うデータがセンシティブであり、サービス時に(必要以上に)個人を特定せずにやりとりすることが求められる
・儲かる、ことが必要である



上記必要性から、Fintech業界では、様々な概念、テクノロジーが生まれてきている。
Fintechで使われている”ユーザ個人を特定せずしかしユーザが受け取る利便性は担保する”データ利用法は、
Fintech周辺業界のみならず、
ビッグデータを用いたマーケティングに関わる方すべてに参考になると思われる。



ここからは、具体的なキーワードを、
下記書籍から引用しながら、紹介していく。
※一部、Fintechに限らないキーワードも含まれる。




“OMO(Online Merges with Offiline)”
中国では、周知の通り、日本以上にキャッシュレス化が進んでいる。
その背景には、alibabaなどのIDによる認証で、
オンラインでもオフラインでも決済ほかサービスの享受が可能だからだ。
なぜ、日本ではうまくいっていないキャッシュレス化が、中国ではうまくいったのだろうか。
アリババの日本法人CEOの香山氏と、元ソニーで現クオンタムリーブ代表の出井氏との
対談は示唆に富む。



香山「(日本では)ハードを売ろうという考えがベースにありますよね。
クレジットカードも読み取り機が必要。FeliCaも読み取り機が必要。」(上記 P.55より引用)

香山「QRコード自体は、何といっても無料ですから。
世界水準のものを誰でもイニシャルコストなしで使えるわけです。
中国でアリペイを利用できる数千万軒の小売店のうちの9割は、QRコードを
店先にただ貼ってあるだけなんです。
導入手数料はゼロだし、ランニングコストもゼロ、
ユーザーメリットと言ったとき、消費するお客さん側のユーザーももちろん大切なんですが、
同じくらい売る側のユーザーも大切なんです。
小売店が、これまでの商売のやり方を変えることなくデジタルに切り替えることができたのは
大きかったと思います。
露天商や屋台をやっている方にだって使えるわけですから。」(上記 P.55より引用)



クリエイターの高城剛氏は、
「その国でイノベーションがどこまで進んでいるかは、屋台を見ればわかる」と言った。(“イノフェス2018″より)
データビジネスを仕掛ける際には、そのデータ収集とサービス提供接点が重要となるが、
どちらも、いかにユーザに負荷をかけずに現状の延長線上で行うことができるかが鍵となりそうだ。



また、ユーザデータを収集しサービスを提供する際に、
ローデータを用いずとも、演算さえできればよい、ということも多い。
そこで、元・WIRED日本版編集長の若林氏が、
デイビッド・バーチ氏にインタビューした中で語られていた、
下記2点の概念は押さえておきたい。(どちらもバーチ氏の発言)



“ホモモーフィック・エンクリプション”
「この技術は(中略)暗号化されたデータを解析することができる。
例えばブロックチェーン上に、君の会社のデータや記録が書き込まれていたとして、
それは特定のやり方で暗号化されているので他人が見ることはできないのだけれども、
見えないのにもかかわらず、特定の計算や解析をすることはできるんだ。
それによって、君の資産が信用と見合っていないことを、細かい財務データを見ることなく
分析することが可能になるんだ。」(上記 P.63より引用)



“ゼロ・ナレッジ・プルーフ”
「ブロックチェーン上にデータを蓄積しているのではなく、その代わりに、
ブロックチェーン上にデータに関する照明を置いておくというやり方だ。
これのわかりやすい例を挙げよう。
例えば、お酒を買うために自分が20歳以上であることを照明しなくてはならないときに、
相手に生年月日を渡す代わりに、自分が20歳以上であることを示す、
コンピューテーショナルな照明を相手に渡すことができればいい。
つまり、自分があるグループに所属していることが証明されればよくて、
この場合、自分が20歳以上の人のグループに属しているということの証明があれあ十分なんだ。
かつ、暗号によって、そのグループのどの人物が君なのかを相手は特定することができない。」(上記 P.65より引用)



なお、上記について語られている、若林氏・バーチ氏の対談は、
下記からウェブで全編を読むことができる。
「ブロックチェーンは銀行をどう変えるか」についての、ある予測(現代ビジネス)



| (3)データビジネスに潜む道義的責任に立ち向かう


収集するデータ内容、自体に気をつけたとしても、
その集め方や、ビジネスとしての儲け方が、問題となることもある。

たとえば、中国の病院では、良い先生は人気のため、開院と同時に、
整理券の争奪戦が繰り広げられる。
しかし、開院前から長時間並ぶのは忙しい現代人にとって、誰にでもできることではない。
そこで、開院前から並んでその整理券を取得し、欲しい人に販売する、という業者が発生しているそうだ。
これは、一見、誰も損している人がいないようにも思える。
※お金があるが並ぶ時間がない人は業者から整理券を買い、
 時間はあるがお金はない人は並び、
 どちらもない人は、別の医者にみてもらえばよく、
 病院も、勝手にこのような業者が存在することで、損しているわけではない。(ように思える)
しかし、心証として、道義的な問題があるように感じる方も多いだろう。

別の例として、
あるアメリカの学校で、授業に必要なカリキュラムや教材を無性で提供する一方で、
カリキュラム内に企業の商品についての言及があったり、
授業で見せる映像教材の中に、様々な企業CMを流す、というビジネスを行った業者があったようだ。
学校側としては、安価に教材を調達できるメリットがあり、
業者側も、教材を提供する反面、若者にピンポイントでアクセスできる広告枠を手にすることになり、
どちらも得をするように思われる。
しかし、肝心の生徒はどうだろうか。このような教育で批判的精神は育まれるだろうか。

このように、一見成立しているが、道義的な責任が問われるような
様々な事例を紹介した書籍が下記となる。


これは、『これからの「正義」の話をしよう』で有名な哲学者マイケル・サンデル氏の書籍となる。
昨今の、ユーザ行動を”インセンティバイズ”する(インセンティブを与える)ことで成立する様々なビジネスについて
その道義的責任を問う本であり、一度目を通しておきたい。
※そういうビジネスをして良い、悪いということではなく、
 テクニカルに可能なことでも、立ち止まってそのビジネスの本質を考えるために。

もし、”インセンティバイズ”が不適切なシーンであれば、どのような対処が必要だろうか。
現在のデータビジネスは、極論、”マッチング”の問題、と考えることができるが、
例えば、臓器移植における患者と臓器提供者のマーケットにおいて、
インセンティバイズせずに、いかに良いマーケットをデザインし、
“適切に/効果的に”マッチングしていくか、ということを具体的な手法やエピソードとともに紹介した書籍が下記となる。


こちらも、あわせて精読されたい。
※ちなみに、どちらの書籍も、『NEXT GENERATION BANK』内でも様々な書籍とともに紹介されている。
 個人的には、それらの書籍をいくつか読んだ中で、上記2冊は特に興味深かった。

データやテクノロジーが進化した時代だからこそ、
機械的な効率で、課題を、解決できるかどうかで考えるのではなく、
人間的な倫理観で、解決すべきかどうか、に立脚しながら、
個人的にも、よりよいデータビジネスを模索していきたい。